Sunday, July 9, 2017

『MM』 市川拓司


ぼくはジロ、彼女はモモ。15才のジロは、ある日モモに彼女の伝記『彼女の物語』を書くよう依頼され、そこからぼく(佐々時朗)とモモ(南川桃)の中学三年生の夏の話が始まる。

ジロは町の食堂で働く母と住み、学校のクラス内では特にどのグループにも属さない。一方のモモは父親を町の縫製工場の支社長に持つお嬢様で、美人聡明の女王様。駅前の本屋でモモから声をかけられるまで、モモには興味も接点も無かったジロ。彼女の家で伝記のためのインタビューを重ねていく内に、度重なる引っ越しをして来た彼女がクラスで敵を作らないように努力し演技して立ち回っている事を知る。だんだんと仮面の下の本当のモモを知るうちに自分でも思いがけずモモに惹かれていくジロ。一方、学校のクラス内では沸々と問題が沸きあがってくる。縫製工場幹部を親に持つ生徒たちからなるモモの取り巻きグループは、はみ出し者には容赦ない。そしてモモもある日クィーンの座から転落してしまう事になる。自分の気持ちとクラスのゴシップの間で迷うジロはどうやってモモを守れるのか?そしてモモは何故、ジロに伝記を書いてと頼んだのか?クラス内の事件と同じくして、町の縫製工場でも事件が重なり、二学期の終業式とともに彼らの生活はクライマックスを迎える・・・。

15才という子供らしい初恋のやり取りと、そして大人達の生活を見ながら社会の醜さを直視し批判できる純粋さが無理なく描かれている。話が何度か前後するも、関連付けをしながら滑らかに話が進んで行くのであっという間に読み終わった。大人のように冷静な事を考えつつも、学校クラスの村八分やゴシップの事になると足が竦んでしまう。こういう危ういバランスを保って葛藤していく子供たちの純粋さと勇気、喜びは味わいがあった。若者だけでなく大人の読者にも十分に楽しめる作品だと思う。特に今の時代の子供~青少年たちが、色んな事へ対しての最初の一歩を踏み出す勇気について考えるきっかけになるかもしれない。

ジロがハリウッドの脚本家になるのが夢という事で、頻繁に映画タイトルや俳優名などが出てくる。そしてまた1980年代前後の洋楽アーティストや曲なども頻繁に出てくるのだが、それは時代設定の効果も狙っていたのだろうか?個人的には馴染みのある名前や曲がほとんどだったのだけれど、どれだけの読者が知っている、あるいは興味を持つのかな?とちょっと思った。


P.S.
タイトルのMMは南川桃のイニシャルです。話の途中で美人女優のイニシャルがジロによって幾つかあげられるけれど、全部わかったよ。MMはマリリン・モンロー、BBはブリジット・バルドー、FFはファラ・フォーセットだよね。


NetGalleyを通して小学館さまよりプルーフ・コピーを受け取らせて頂きました。これは私の公正なレビューです。



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